お染の七変化(鶴屋南北『於染久松色読販』)とTVドラマ「モンスター」

前にも取り上げましたが、TVドラマ「モンスター」をもう一度取り上げてみたいと思います。 株式会社ビデオリサーチ(本社:東京都千代田区)は年に4回、テレビ番組や配信コンテンツの総合的な"視聴質"評価(数値的な視聴率ではなく、視聴の質を問う調査)を行っているのですが、昨年10月からの秋のクールの調査で、男性女性そして全体で、好感度1位になったとの報道がありました。 視聴率では「モンスター」はそれほど高い数値を出してはいなかったようですが、視聴質では群を抜いての高数値だったということになります。 https://www.videor.co.jp/press/2025/250122.html 「モンスター」の何が高視聴質を生んだのかは、様々な分析が可能だと思います。私見でも幾つか考えられるのですが、ここではその一つじゃないかと思われる、役者が本筋とは別の様々な役柄をこなし、そこで演技力やその幅の広さを披露して、変化に富んだ舞台(ドラマ)を作り上げること(つまり七変化)について述べてみたいと思います。 「モンスター」の七変化と言えば、主演の趣里さんが劇中にて様々な役柄に挑戦したことですね。たとえば、掃除婦さん(1話)、女性アイドル(2話)、浴衣美人(3話)、 街コン参加の女子大生(4話)、大阪のおばちゃん(8話)、新婚カップル(10話)、ギャル(11話)などに扮しましたね。どれも見事な変身と言いますか、成りきっていて面白かったです。たとえば、最後のギャルですが、ギャルと…

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日本語・韓国語の翻訳をめぐって

韓国、ソウルの北村〈プッチョン〉よりの眺め、北村はその昔両班が多く住んでいたと言われる。ソウルの街歩きには最高の場所のひとつ) 前回と前々回において、『東アジア文化講座・第2巻』(漢字を使った文化はどう広がっていたのか、金文京編、2021年)を取り上げて、該書で取り上げられた興味深い点の幾つかを考えてみました。 該書の後半に翻訳・通事の問題があり、これも多くの論考から様々なことを学ばせていただきました。 で、その翻訳なのですが、これは過去の問題ではなく、現在でも、というか、現在こそ重要な問題として私たちに迫りくるものです。私が昨今気になっていることに、韓国語の翻訳ソフト、翻訳サイトの問題があります。 昨年のことでしたが、知り合いから韓国の知人にメールを出したいが、韓国語がまったく分からない。でも、とりあえず作ってみたので、ちょっと見て欲しいと言われたことがありました。 それで、その知り合いの韓国語の文章を見たところ、これが実に良い出来上がりで、驚きました(とはいえ、私の韓国語能力は大したことがありませんので、レベルの低い評価になりますが)。 知り合いに、このハングルの文章はどうやって作ったのかを聞いたところ、日本語で文章を作り、それを韓国語の翻訳サイトで翻訳したとのことでした。私もそうしたサイトを使うこともあるのですが、丸投げで翻訳することはなく、難しい単語や言い回しなどの時に利用する程度でした。 そこで、韓国語翻訳サイトや翻訳ソフトを少し調べてみたと…

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東アジアにとって漢文とは何か

(金文京著『漢文と東アジア』岩波書店、2010年。『東アジア文化講座・第2巻』金文京編、2021年)  前回につづいて、『東アジア文化講座・第2巻』を取り上げたいと思います。  この第2巻を取り上げるにおいて、やはり編者の金文京さんの文章を取り上げないわけには行かないだろうと思います。それは編者だからということでは全くなくて、金さんの書かれた文章には、東アジアの漢文についての金さんの確固たる視点が貫かれているからです。  その、金さんの視点からは、現在の東アジア漢文研究についてにの金さんの危機感がひしと伝わってきます。本書第3部「東アジアの漢文」の最後を読めばそれはよく分かるのですが、これについてはまた後で触れたいと思います。こうした金さんの危機感と、そうした事態に対する真摯な考察というのは、中韓日全体に言語能力としても文化的造詣としても、深く通じておられる金さんだからこそ成し得るものです。よって、読む側としても、いささか襟を正して拝読しないといけません。  金さんに比べれば、私などは本当にいい加減なものです。前にも書きましたように、東アジア文化講座などというものは今までに無いのだから、とにかくどんな形でも構わない、世に問うてみることが大事だと能天気に考えておりまして、金さんのような危機感は全くと言ってよいほど持ち合わせては居ませんでした。よって、この第2巻を最初に拝読した時には、思わず居住いを正したといった具合でした。  閑話休題。本2巻に書かれている金…

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