前にも取り上げましたが、TVドラマ「モンスター」をもう一度取り上げてみたいと思います。
株式会社ビデオリサーチ(本社:東京都千代田区)は年に4回、テレビ番組や配信コンテンツの総合的な"視聴質"評価(数値的な視聴率ではなく、視聴の質を問う調査)を行っているのですが、昨年10月からの秋のクールの調査で、男性女性そして全体で、好感度1位になったとの報道がありました。
視聴率では「モンスター」はそれほど高い数値を出してはいなかったようですが、視聴質では群を抜いての高数値だったということになります。
https://www.videor.co.jp/press/2025/250122.html
「モンスター」の何が高視聴質を生んだのかは、様々な分析が可能だと思います。私見でも幾つか考えられるのですが、ここではその一つじゃないかと思われる、役者が本筋とは別の様々な役柄をこなし、そこで演技力やその幅の広さを披露して、変化に富んだ舞台(ドラマ)を作り上げること(つまり七変化)について述べてみたいと思います。
「モンスター」の七変化と言えば、主演の趣里さんが劇中にて様々な役柄に挑戦したことですね。たとえば、掃除婦さん(1話)、女性アイドル(2話)、浴衣美人(3話)、 街コン参加の女子大生(4話)、大阪のおばちゃん(8話)、新婚カップル(10話)、ギャル(11話)などに扮しましたね。どれも見事な変身と言いますか、成りきっていて面白かったです。たとえば、最後のギャルですが、ギャルと言えば、ちょうど朝ドラ「おむすび」で橋本環奈さんがギャルに扮しています。贔屓目かも知れませんが、環奈さんより趣里さんのギャルの方がギャルらしいと感じました(笑)。ちょっと暗くて不良っぽいところが・・・。
ま、それはともかくも、これとは別に、趣里さんがお父上の水谷豊さんの(「相棒」の右京さん)真似をして紅茶を高いところから注ぐなんてのもあって、そうとうに遊び心が感じられた作品だったと思います。
それから、杉浦を演じられたジェシーさんは、ちょうどその逆と言いますか、ご本人は英語が出来るのに、まったく出来ない役をさせられたり、ダンスやパフォーマンスが得意なのに、変なラップをさせられたり、これはこれで面白かったところです。ジェシーさんのファンは面白かったんじゃないでしょうか。
きっと、撮影現場も楽しかったでしょうね。役者さんはもちろんですが、現場のスタッフさんも一緒に楽しんだんじゃないかしらん。
それで、この七変化ですが、これは言うまでもなく日本の伝統文化・歌舞伎の得意技ですね。
一番有名なのは、鶴屋南北『於染久松色読販』(おそめひさまつうきなのよみうり)です。お染久松は、歌舞伎の代表的恋バナのカップルですが、この作品では、役者一人で、このお染と久松を始め、様々な役を早替りで演じます。
それは、油屋娘お染、丁稚久松、許嫁お光、奥女中竹川、芸者小糸、土手のお六、後家貞昌、です。つまり、一人で老若男女を演じるんですね。しかも早替りですから、上手(かみて)の袖に引っ込んだと思ったら、すぐさま下手(しもて)の袖から、違う役で登場するという、アクロバットを演じるんですね。
私はかつて、坂東玉三郎さんがこの七変化を演じている場面を見ましたが、これがすこぶる面白く、舞台に目が釘付けになった覚えがあります。
こういう「遊び」が演劇やドラマのもつ魅力の一つなんですが、昨今のテレビドラマを見てると、あまり見かけません。スポンサーのことを気にしているのかも知れませんが、どうも生真面目すぎますね。
演劇やドラマは虚の世界ですから、時には思い切って羽目をはずすべきです。圧倒的な「在り得ない世界」を現出して欲しいと思います。視聴者はそれを見てしばし現実の憂さを忘れるわけですから。
演劇やドラマの、話の筋はタテ糸です。そしてこうした「遊び」はヨコ糸です。これが上手く絡むと上等な織物になるわけです。昨今のドラマはタテ糸ばっかりですぐに先が読めてしまいますね。ぜひ上等な金糸銀糸のヨコ糸を惜しみなく使って欲しいと思います。
もし、ヨコ糸が思いつかなくて困ったら、歌舞伎・浄瑠璃・能狂言などの古典演劇を見てください。アイディアの原石がそこにゴロゴロしていますから。
以上です。
*なお、「モンスター」を拝視聴している中で、役者さんはもとより、現場スタッフの、良い作品、楽しい作品を作りたいという、意気込みみたいなものを強く感じました。ここ数日の一部の人たちによるトラブルで、意気消沈してしまわないことを、心より祈っております。
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